
咀嚼とは、食物の口腔内への取り込み、噛み砕くことによる表面積の増加、だ液との混和、食塊形成などすべての過程を含んでおり、食物 の消化・吸収に重要な役割を果たしています。残念ながら咀嚼などの「食べ方」の重要性は、正確に理解している人は多くありません。また、咀嚼能力の向上に関しては子どもだけでなく成人も高齢者に関係し、幅広い年代への食育活動が必要です。特に、生活習慣病予防、健康長寿のためには咀嚼能力を向上していく取り組みを行っていかなければなりません。食の分野からのアプローチは、食べ方、調理方法、噛む食習慣を養う食育を行うことがそれにつながると考えられています。
「ひみこの歯がいーぜ」活動
1989年より、厚生労働省と日本歯科医師会が提唱し、自治体、各種団体、企業、そして広く国民に呼びかけきた 「8020運動」。これは、80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”という運動のことを言います。この「8020運動」を、国民運動としてさらに発展させていくために、平成12年12月に設立された「8020推進財団」は、“噛む8大効果”を広く社会に訴求するために、「ひみこの歯がいーぜ」という標語をつくり、噛むことの大切さを呼びかけています。
「ひ」肥満予防:よく噛んで食べると脳にある満腹中枢が働いて食べすぎを防ぎます。
「み」味覚の発達:よく噛んで味わうことにより食べ物の味がよくわかります。
「こ」言葉の発音がはっきり:よく噛むことにより口のまわりの筋肉を使うため、表情が豊かになります。口をしっかり開けて話すときれいな発音ができます。
「の」脳の発達:よく噛む運動は、脳細胞の働きを活発にします。子どもの知育を助け、高齢者は認知症の予防に役立ちます。
「は」歯の病気を防ぐ:よく噛むとだ液がたくさん出て、口の中をきれいにします。このだ液の働きが虫歯や歯周病を防ぎます。
「が」ガンの予防:だ液中の酵素には発がん性物質の発がん作用を消す働きがあります。よく噛んでガンを防ぎましょう。
「いー」胃腸の働きを促進:よく噛むことで消化酵素がたくさん出て、消化を助けます。
「ぜ」全身の体力向上と全力投球:力を入れて、噛みしめたいとき、歯を食いしばることで力が湧きます。
咀嚼向上能力のための食育活動例
小学校三年生に対しての食育活動例:自分の好きな食べ物について、おやつや給食、家の食事から話し合います。子ども達からは、カレーライス、スパゲティ、バナナ、ハンバーグ、クッキーなどが出します。次に、「カレーを食べるときは、どんなふうに食べる?」と質問し、実際にスプーンで食べる格好をさせます。これにより、自分がよく噛まずに飲み込んでいることに目を向けさせます。また、咀嚼する力が弱い子どもには、給食で「かつめし(地域特産の丼物)」が出たとき、なかなか噛みきれず、長い時間かかってやっと飲み込めたことを思い出させます。こうして、実際にやってみたり、給食を思い出したりしながら食べているときの様子を想像させ、あまり噛んでいないことに気づかせます。
無意識に食事をするのではなく、日常の食事の中に1つでも咬合力を高めるような食品を取り込むことを習慣づけるほか、咀嚼能力を高める食品や調理方法について広く知識を普及させるなどの食育活動が必要です。このような食育活動はあらゆる年代層に適応でき、咀嚼能力向上させる可能性が期待できます。日常生活の中で無理なく咀嚼能力を向上できる方法や素材について検証を重ね、多くの人が効果をあげられるよう、情報発信や普及活動などの食育活動が必要です。