食育基本法の下に国、自治体、教育機関、そして家庭で積極的な取り組みが推進されている食育ですが、その食育において最も大切なこと、食育の在り方とはどのようなものといえるのでしょうか。
理想の押し付けの食育ではいけない
現代社会は、家族の在り方にも多様性がでてきて、それに伴って食生活の在り方も大きく変わってきています。食育推進にあたって「孤食」が問題の1つとされていますが、好んで一人で食事を摂っているわけではない人もたくさんいます。ひとり親世帯でどうしても親が働きに出なければならないために孤食せざるを得ない子供や一人暮らしで外に出る機会もなく、孤食している高齢者、親の仕事や子供の習い事や課外活動があり時間が合わせられないために共食の機会がとれない家庭など、孤食1つをとってもその背景には様々な事情があります。そのような状況において頭ごなしに「孤食はダメ、家族と楽しい食卓を囲みましょう」というような理想を押し付けるだけでは何の改善にもならないでしょう。本当の食育とはこうした一方的な押し付けとは違うと思うのです。
対象者の目線に立った食育であれ
次世代を担う子供たちへの食育は食育推進において最も重要なテーマであり、食育基本法や食育推進基本計画には子供たちの食生活の基盤である食や栄養、健康に関する経験や知識の習得を積極的に実施するよう示されています。しかし、実際その家庭での食育を任される立場の親や保護者の声を聞くと、「難しそう」「めんどくさそう」、「何をすれば食育なのかわからない」「料理が苦手だから」というようなネガティブな考えも少なくありません。しかし、どんな状況であっても子供を持つ親や保護者の立場であれば、子供の幸せや健康を何よりも願っているものです。このような親や保護者の思いに沿った形で展開されるのが本来の食育なのではないでしょうか。「朝ごはんは毎朝しっかり栄養バランスよいものを」「インスタント食品は避け愛情込めた食事を」などということは重々承知であるという親や保護者は多いのです。しかし、頑張らなければと思っていても、毎日子供たちのために完璧な食生活をするのは無理というジレンマが生じているのが現実だと思います。家庭の食育を担う親や保護者に「毎日完璧じゃなくても大丈夫」「できる範囲で十分」と背中を押すような食育、「食育は大切だけど頑張りすぎなくてよいもの」という認識を持ってもらう食育の展開が結果として、子供たちへの食育推進に大きくつながっていくのではないでしょうか。
笑顔・幸せを作るのが食育
食育で養う力は生涯健康で生き抜くための基盤であるとされており、様々な食育が各所で展開されていますが、現代の家族や社会が抱える現実をしっかりと把握した上で、一方的な押し付けにならない食育でなければならないと思います。そもそも食とは個々のものであるということが前提であるため、何が正解で何が間違いという性質のものではありません。科学的根拠のあることや生活リズムなどの習慣、箸の使い方や食事マナーなどの知識、技能などの食の基本となる部分は大人が教え、育んでいかなければならないことですが、それも頑張りすぎる必要はありません。焦らず・頑張りすぎず・少しずつできることから始めれば十分なのです。「食育をしなくては」と難しい顔をして食卓を囲んではせっかくの食卓が台無しになってしまします。子供たちはお父さん、お母さん、家族の笑顔が大好きです。家庭の食生活の形に正解も不正解もありません。なによりも大切なのは子供たちが、家族が笑顔で幸せを感じられる食生活を送ることです。1人でも多くの国民の食卓に笑顔と幸せを満たすことが食育の大切な意義だと思います。