私達には視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚の五感が備わっており、食事においてもそれをフル活用しています。しかしそれは無意識です。この五感を意識して食事をとる事が、食への関心を深め、食育につながります。前回の記事では、食育~五感で食を感じよう①視覚で選ぶ色は健康でおいしい~で「目で見て食べる」事から食事が始まっていること、7色の食材の特徴についてご紹介しました。目で見て食事を食べる際に、「おいしそう!食べたい!」と思ってもらえるように5色以上の色を献立に取り入れる事は、結果的にバランスのいい献立をつくる事につながります。目で見ておいしいを作る事は、体に必要な栄養素も取り入れる事ができるのです。
今回は嗅覚からの食育のご紹介です。
私達は実は口に入れる前に、目で見るだけでなく嗅覚で得る食材や料理の香りから食事をしています。実際、味の95%は嗅覚で得る情報で成り立っています。人間 は、食べ物のおいしさを鼻先からと鼻の奥からの2つの嗅覚経路で味わうことができる希な生物なのです。そして残りの5%が舌で感じる味覚情報によるものです。風邪で鼻がつまった時に料理の味がわからないというのは、舌の5%で味を感知しているので、得られる情報が少ない為です。このように、嗅覚は実は食事においてもとても重要な役割を持っています。
香で味を想像しよう
近年はストレス社会で忙しく、ゆっくりと食事をとる事ができないという人も多くいます。また、ケータイ電話やスマートフォン片手に食事をしていたり、においは感知しているけれど、その食材、食事の香りをじゅうぶんに味わう時間がありません。人生で約80年生き、一日に3食食べる計算で、人生で食べる事ができる食事は単純に計算して87600食です。意外に少ない数字だと思われる方もいるでしょう。
この食事中、一人でとる食事や、家族や友人、恋人など、だれかと楽しくお喋りしながら楽しむ食事はそれぞれ何回かわかりません。しかし、楽しい食事の数が生涯において多い方がいいのではないでしょうか。
ぜひ、食事中に料理の香りを感じるように意識してゆっくりと食事を楽しんでみてください。食事はただおなかを満たすものではなく、心にもうるおいをもたらしてくれるものになります。
本来、嗅覚情報は生物にとって生死を分ける非常に大切な感覚ですが、人はこの嗅覚情報がなくても、視覚情報と聴覚情報があれば生きていける為、この嗅覚情報が退化してきてしまっています。
しかし95%も使う料理の味を決める嗅覚を意識して使う事は、食事のおいしさをより際立てるものになります。また子どもにとっての食育として、幼少期からそれを意識して習慣にする事で生涯食への関心を高める事ができます。ぜひ、意識してみてください。
香りの効果
食材や食事の香りを感じる事は、食欲を掻き立てる事につながります。空腹時には食事をとてもおいしく感じますが、香りで「食べてみたい」「はやく食べたい」を生むことができます。
例えば、土用の丑に食べるウナギの香りはついつい足をとめてしまいます。料理の出来立てのにおい、湯気のたつにおいや、肉や魚の香ばしいにおいを嗅ぐと、「おいしそう」と感じます。それにより、その食事がとても楽しいものになります。また、レモンの香りを嗅いだだけで酸っぱさがよみがえり、口の中の唾液の分泌が多くなります。フレッシュな果物の香りは気分を爽快にしてくれます。コーヒーの香りは豆の種類によって異なりますが、リラックスでき、集中力を高めてくれます。甘いバニラの香りは気分を和らげてくれます。
香りにはさまざまなものがありますが、その効果は様々です。気分によってこの効果を取り入れた料理やお菓子をつくる事もおすすめです。
香りの記憶
最後に、あるにおいを嗅ぐと記憶が蘇りますが、それは嗅覚と脳の記憶をつかさどる部分が非常に密接になっている為です。
食育の観点から、特に幼少期からの子どもへの食育として、料理のにおいによって楽しい記憶をつくる事はとても大切です。
春の桜餅やよもぎのにおい、ピクニックで感じた草花のにおい、夏のスイカや海の潮のにおい、秋の味覚のにおい、冬のクリスマスのごちそうのにおい等、子ども達に残す「楽しい食事」のにおいを沢山作ってあげましょう。それらの経験は食事を生涯楽しむ事につながります。